高萩 幸男
高萩 幸男
 (Yukio Takahagi)

■コラムテーマ別
 + 面接官のトーク術(79)
■物語に惑わされるな (2014/03/07)

本日は五輪ネタにお付き合いください。

唐突ですが
「もし、あなたが浅田真央選手を面接したならどう評価しますか?」

回答例1「可憐、凛としている」
こういう感じの評価、実際の面接でもよく見かけます。

可憐とは何か?凛としていると自社にどんな良いことがあるのか?
“分かる”とは“分ける”から派生した言葉だといいますが
評価者として最も拙いのは、個人の特徴を整理・分解できないこと。

この例のように
丸ごと・感覚的に評価するのは×だと思います。

回答例2「努力家、がんばり屋さん」
これが一番多いかもしれませんね。

確かに、マスコミが連日報道していたのがまさにココ。
「4年間の努力は報われ、きっと金メダルを取る」という論調に
家族を亡くしたエピソードとキム・ヨナ選手との因縁話を盛って煽りまくる。
まるで韓流ドラマかスポ根アニメの世界(笑)。

話は逸れますが
こういった、本質とは全く関係のない“物語”に目を奪われがちな方は
気をつけてください。

先頃話題の“偽ベートーベン”の件もしかりですが
物語に感情移入するあまり、成果(あの場合、自作偽装した曲)が
過剰によく見えてしまう。

面接でいうなら
成果と関連の薄い、苦労話や頑張ったエピソードに心動かされ
過大評価してしまう危険性があります。

話を戻しましょう。
「努力家、がんばり屋さん」という評価。
私も同感です。ただ、それだけでは評価として物足りない気が…。

早い話、同じく日本代表の鈴木、村上両選手だって
「努力家、がんばり屋さん」ですし
そもそも、そうじゃない人が五輪に出られるわけがない。

浅田選手という個人ならではの特徴を探るうえでは
彼女がなぜ、あそこまでトリプルアクセル(TA)にこだわったのか。
ここにヒントがあるように思われます。

日本のマスコミが枝葉の“物語”ばかり報道するなか
外国特派員協会が会見でズバリ切り込みました。

記者『必ずしも高得点にはつながらないTAですが
違うやり方でメダルを獲得しようとしたことは?TAを諦めない理由は?』

浅田『私は小さい頃からずっと伊藤みどり選手に憧れて
みどりさんの次を継ごうと思いTAに挑戦してきました。
このTAは私自身を強く持たせてくれるものでもありますし
成功したときは、達成感の気持ちでいっぱいになります。
だから今年もTAをずっと挑戦してきました。
今回フリーで、TAは(演技構成に)ずっと入っているものだったので
TAを飛ばないという選択肢はなく、一番の見せ場だと思っているので
絶対に外す訳にはいかなかったです』

・偉大な先輩の後継者になるための“挑戦”。
・TAは単なる技の一つではなく“アイデンティティ”。
・見せる(=魅せる)ことへの“意識”。

インタビューの行間に透けて見える彼女のこうした素顔は
可憐という語感とは全く異なる、えらく男前な表情。

もちろん、浅田真央という人の実像は知る由もありませんが
「あの可憐で、がんばり屋の真央ちゃんが…(泣)」
多くの国民が流した涙と、笑顔とともに溢れた彼女の涙には
日本とソチ以上の距離があるようです。
(次回に続く)


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