高萩 幸男
高萩 幸男
 (Yukio Takahagi)

■コラムテーマ別
 + 面接官のトーク術(79)
■天使のように大胆に、悪魔のように細心に (2017/04/28)

面接は「最初の5分」で決まる。
本当か嘘か、こんな話をよく聞きます。

「そんなアホな、5分で評価するわけないやん!」
いつもガッツリ90分以上インタビューする私としては
鼻で笑っていたのですが
2000年、トレド大学の実験発表によると
面接結果は「最初の10秒」で下された評価から予測できる
とのこと。

その実験とは実際の面接をすべて録画。
そのうち応募者がドアをノックするところから始まり
席に着いて10秒後に終わる映像を被験者に見せる。

被験者はその断片的な映像を基に
採用可能性、適性、知力、意欲、責任感、信頼性、冷静さ
人格的温かみ、礼儀正しさ、好感度、表現力の11項目を評価する。

すると、11項目のうち9項目について
実際の面接官の最終評価と
10秒映像だけを見せられた被験者の評価に相関性が見られた
というではありませんか!

「最初の5分」どころか「最初の10秒」。

新卒なら30分で3〜5名を集団面接するなんてザラ。
面接官としては
「時間が足りない」と感じるものですが
先の実験が正しいなら
「最初の10秒」で評価を終え、残りの29分50秒
私たちは一体何をしているのでしょうか(笑)

心理学では
「自分の信念や仮説を確証できるよう、情報を探し、解釈し
優先順位をつける性向」を確証バイアス(=偏り)と言うそうです。

つまり、直感的な第一印象で評価を下し
後は、それが正しいと確信できる証拠探しに
一生懸命になっていると。

極論すると、残りの29分50秒は
「自分の評価は間違いない、ヨカッタヨカッタ」と
納得、安心するために
「あなたの強みは何ですか?志望動機は?」と
“いかにも”という顔で質問をしていることになります。

「そんなアホな、10秒で評価するわけないやん!」
そう反論したい気持ちはありつつも
では完全否定できるかと言われると微妙。

面接経験を積めばつむほどレベルアップするが
確証バイアスに陥りやすくなる。
面接官という仕事の難しさがここにあると痛感します。

「天使のように大胆に、悪魔のように細心に」とは
黒澤明さんの言葉。

「天使」のように曇りのない眼で「大胆に」評価する。
その一方
人が人を評価する、という「悪魔(笑)」的な行為に携わる以上
己の下した評価を「細心に」疑う。

どうやら映画監督と面接官は
天使と悪魔の両方を使い分けないといけない仕事のようです。

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