高萩 幸男
高萩 幸男
 (Yukio Takahagi)

■コラムテーマ別
 + 面接官のトーク術(79)
■「書く」のではなく「描く」 (2009/12/17)

ある行動場面に於ける
「意図(なぜそう考えた?)」を問い
「内容(何をどうした?)」を聞き
「結果(どうなった?)」を確認する。

この繰り返しが面接の「基本」だとすると
基本に忠実な面接は相当疲れます。

質問をしながら次の質問を考え
同時に相手の答えをメモする。
しかも合否(評価)の見当をつけながら。

頭の中はフル回転。
いくつもソフトを立ち上げたパソコンと同じで
どこかで引っかかると
たちまち「フリーズ」してしまう。

まれに「面接は楽しいから疲れません!」と
おっしゃる方もいますが
それは恐らく基本から外れた面接をしているから。
時々に思いついたことを脈絡なく質問する。
そんな「世間話」の延長みたいな面接なら
確かに楽しいし、疲れないかも。

一般的に
質問することに比べ、発言を記録すること
つまり「書く」ことのほうが大変だといわれます。

確かに、かつて私も
応募者の一言一句を書き漏らすまいと
神経をそちらに集中した途端
次の質問が思いつかずに
黙ってしまったことがある。

ならば速記のように早書きしようと
トライしたこともありますが
あとで何が書いてあるか自分でも読めない…。

この時点で正確に書き取ることは諦めました。

今私が心掛けているのは
「書く」のではなく「描く」こと。
つまり応募者の行動場面を頭の中に
映像としてイメージすること。

例えば
難題にぶつかったという話しが出てきたら
応募者が困り顔で立ち尽くす姿を最初にイメージする。

そして応募者がその後
どう考え、どう行動したのかを聞き
あたかもその応募者を主役にした映画のように
映像として頭の中で「描いて」みる。

もちろん
全く何も「書かない」わけではなく
ムリのない範囲でやる。
ただしそれは映像を後で思い出すための
キーワード的なメモであり補助的なもの。
あくまでもメインは映像。

そして面接終了後
その映像を頭のなかで「再上映」
その場で書けなかったことを
じっくり書き加える。

面接中にあせってペンを走らせるより
この方がよっぽど確実です。
また時間的・精神的余裕ができるせいか
面接に「溜め」を作ることができます。

「なぜそうしようと思ったんですか?」
で、「その後、どうしたんですか?」
で、「その結果どうなりましたか?」

確かにこれは冒頭でお話した面接の基本。
しかしこれらの質問を矢継ぎ早にぶつけたところで
応募者が当時のことを十分に思い出せていなければ
満足に答えられるわけがない。

「ゆっくりで構わないので思い出しながら
お話してくださいね」
「その頃、大変だったんでしょうね」
「苦労の末に結果が残せたときは嬉しかったでしょう」

一見、遠回りのようですが
こうした言葉をかけながら会話の「間」を置き
相手が思い出すのをじっくり待つ。

「そうそう、そういえばあの時こんなことがありました…」
こういう反応が得られたら
それは応募者の記憶が完全に蘇ってきた証拠。
あとはその記憶を映像として
こちらの頭に「ダビング」すればよい。

「世間話」でただ盛り上がるだけか
「思い出話」から相手の思考・行動を引き出せるか
ここが面接官としての腕の見せ所ではないでしょうか。
(次回に続く)


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
Copyrightc 2009 PERSONAL VISION INSTITUTE CO.,LTD. All Rights Reserved.
このコラムの全部または一部を(株)パーソナルヴィジョン研究所の事前承諾なく、
いかなる形式・媒体にも複写掲載することを禁じます。


コラムテーマ:<面接官のトーク術>
 バックナンバーも是非ご覧下さい □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
角がとれる前(2020/03/13) <面接官のトーク術>
天然から養殖へ(2020/01/06) <面接官のトーク術>
面接中のメモ(2019/11/01) <面接官のトーク術>
思いやり(2019/10/04) <面接官のトーク術>
「心」に働きかける(2019/07/19) <面接官のトーク術>
空機を読む力(2019/02/22) <面接官のトーク術>
良い「型」(2018/12/14) <面接官のトーク術>
お節介で言い出しっぺ(2018/09/10) <面接官のトーク術>
統制と自由を問う(2018/07/24) <面接官のトーク術>
逆風が人を育てる(2018/07/06) <面接官のトーク術>
型破りと形無し(2018/02/26) <面接官のトーク術>
二つの“きく”(2018/01/19) <面接官のトーク術>
地道に、愚直に、丹念に(2018/01/18) <面接官のトーク術>
“志望動機”って聞く意味あるの?(2017/10/13) <面接官のトーク術>
高評価な人と、そうでない人の差(2017/08/24) <面接官のトーク術>
志を語り継ぐ(2017/08/10) <面接官のトーク術>
天使のように大胆に、悪魔のように細心に(2017/04/28) <面接官のトーク術>
当たり前のことを当たり前に(2016/08/29) <面接官のトーク術>
自分から素顔を見せる(2016/06/03) <面接官のトーク術>
引き算の面接(2016/04/12) <面接官のトーク術>
リクルーターとアセッサー(2016/02/19) <面接官のトーク術>
面接官の提案力(2016/01/12) <面接官のトーク術>
スーパースターばかりが必要か(2015/11/12) <面接官のトーク術>
“辞めない”面接(2015/09/28) <面接官のトーク術>
感情を引き出す(2015/08/10) <面接官のトーク術>
誇れるものがないという人(2015/06/29) <面接官のトーク術>
本当の独自性(2015/05/01) <面接官のトーク術>
VSOP人材論(2015/03/13) <面接官のトーク術>
てまひまかけて(2015/01/09) <面接官のトーク術>
相手の時間を大切にする(2014/11/14) <面接官のトーク術>
一人二役(2014/09/26) <面接官のトーク術>
行動チェックリスト(2014/08/01) <面接官のトーク術>
問題提起の輪を広げられる人(2014/06/16) <面接官のトーク術>
ブレーキではなくアクセルが踏める人(2014/04/25) <面接官のトーク術>
物語に惑わされるな(2014/03/07) <面接官のトーク術>
個人としての動機(2014/01/24) <面接官のトーク術>
「見る」ではなく「観る」(2013/12/16) <面接官のトーク術>
“野暮”をしつこく(2013/10/04) <面接官のトーク術>
まとまりなくべらべら話してもらえたら(2013/08/23) <面接官のトーク術>
ベテランあるある(2013/06/07) <面接官のトーク術>
失敗から得た糧(2013/04/22) <面接官のトーク術>
ストーリーをつなげる(2013/03/08) <面接官のトーク術>
ワクワクさせられるか(2013/01/25) <面接官のトーク術>
「無難」からは「無難」しか生まれない(2012/12/13) <面接官のトーク術>
絶対評価と相対評価(2012/11/02) <面接官のトーク術>
グループディスカッションの弊害(2012/09/07) <面接官のトーク術>
見る力(2012/07/23) <面接官のトーク術>
時間軸に沿って(2012/06/08) <面接官のトーク術>
脱線を楽しむ余裕(2012/04/16) <面接官のトーク術>
学生だけの責任か(2012/03/01) <面接官のトーク術>
面接官も管理職も 根っこは同じ(2012/01/19) <面接官のトーク術>
一つ上の目線で(2011/11/21) <面接官のトーク術>
教えてくださいという 姿勢(2011/10/05) <面接官のトーク術>
応募者に見出しをつける(2011/07/01) <面接官のトーク術>
もし面接官がドラッカーを読んだら(2011/05/16) <面接官のトーク術>
面接官には不向きなタイプ(2011/04/07) <面接官のトーク術>
基本中の基本(2011/02/14) <面接官のトーク術>
自らの仮説を疑う(2010/12/21) <面接官のトーク術>
腹落ちを問う(2010/11/04) <面接官のトーク術>
似顔絵描きであれ(2010/09/27) <面接官のトーク術>
バイアスの悲劇(2010/08/10) <面接官のトーク術>
成長の転機(2010/07/16) <面接官のトーク術>
「なぜ」よりも「何が」(2010/06/20) <面接官のトーク術>
イメージすることの大切さ(2010/06/04) <面接官のトーク術>
聞く技術(2010/05/12) <面接官のトーク術>
選ばなかった理由(2010/04/09) <面接官のトーク術>
社員の共感(2010/03/19) <面接官のトーク術>
尊敬より共感(2010/02/25) <面接官のトーク術>
話の腰を折る(2010/02/04) <面接官のトーク術>
距離を縮め、いつ切り込むか(2010/01/15) <面接官のトーク術>
「書く」のではなく「描く」(2009/12/17) <面接官のトーク術>
表情と話の長さ(2009/11/26) <面接官のトーク術>
山と谷に着目する(2009/11/07) <面接官のトーク術>
素人にもわかるように(2009/10/16) <面接官のトーク術>
意図のある人の面接(2009/09/27) <面接官のトーク術>
WHYを中心に(2009/06/25) <面接官のトーク術>
WHYをどこに集中させるか(2009/06/02) <面接官のトーク術>
WHY・WHAT・HOW(2009/05/11) <面接官のトーク術>
興味・関心を質問に(2009/04/14) <面接官のトーク術>
Copyright © 2024 Personal Vision Institute co.,ltd. All Rights Reserved.